インプラント治療は、顎の骨とインプラント(人工歯根)を結合させることで新たな歯を固定し、よく噛めるようにする治療法です。確かな噛み心地には顎の骨とインプラントとの結合が不可欠であり、結合させるには十分な骨量が必要になります。しかし顎の骨は歯が抜けると時間の経過と共にどんどん痩せていってしまうのです。そこでインプラント治療を実行するために行うのが、骨量を補う「骨造成術」なのです。
少し前までは「骨量が足りないからインプラント治療はできません」と言われて諦める人がたくさんいました。しかし今は骨造成術があります。骨量が足りなくても諦めることはありません。あなたに合った治療法で骨量を増やしましょう。代表的な治療の一つにソケットリフト法があります。
ソケットリフト法は人工歯根を埋入するための穴からソケットリフターという器具で上顎洞底部の皮質骨とシュナイダー膜を同時に押し上げ、そこに作られた空間に人工骨や骨補てん剤を押し込み、人工歯根を入れる骨の厚みを確保します。
手術の際シュナイダー膜を破らないようにしなければならないため3mmほどが骨の高さを得られる限界です。
手術時間は短く、傷口が小さくて済みますので術後の腫れや痛みも起こりにくいと言えます。
※シュナイダー膜…上顎洞と、歯槽骨(上顎)の間にある粘膜のこと。
■ 上顎の歯槽骨の上部(頬骨の奥)には、上顎洞(サイナス)という大きな空洞があり、鼻腔へとつながっています。
■ 上の奥歯を失ってしまうと、上顎洞が下方に拡大していきます。
同時に、失った歯の周囲の顎の骨が吸収されていくので、顎の骨の厚みが加速的に減少していきます。
■ 上顎の骨にインプラントを埋入するための高さ(厚み)が不足しているので、インプラント治療ができません。顎の骨の量が少ないとインプラントの先端が突き出てしまいますので、仮に埋入したとしても安定せず、すぐに抜けてしまいます。
上顎大臼歯部へ人工歯根を埋入するのに上顎洞底までの骨の高さは8mm以上必要ですので、この場合は、骨の高さを確保する必要があります。
(1)骨の高さ(上顎洞までの距離)が5mm以上あれば、ソケットリフト法が適応できます。
(2)インプラント埋入するための穴を形成し、オステオトームという円柱状の器具で上顎洞底を押し上げます。
(3)形成した穴から移植骨を入れます。
(4)移植骨ごと上顎洞底を押し上げ、インプラントを埋入します。
(5)インプラントが骨と結合するのを待ってアバットメントを入れ、人工歯冠を装着して完成です。
■ ソケットリフトは上顎洞底の骨を若木骨折させて、そこに生じた骨の亀裂の部分から少しずつ、人工骨を入れながら、上顎洞内面のシュナイダー膜を切れないように、慎重に挙上させ上顎洞内にできたスペースへインプラントを埋入する方法です。骨に開ける穴の直径は2.8ミリで、その小さな穴から人工骨を少しずつ入れていきます。シュナイダー膜は、人それぞれでその厚さは異なりますが、薄い人はゆで卵の殻の内側についている膜ぐらいです。ですから慎重に行なわないとすぐに切れてしまいますので、人工骨は時間をかけて、ゆっくり入れていきます。
※若木骨折…成長過程の骨に見られる骨折で、骨が若く柔らかいために、若い枝を折ったときのように完全に折れずに、一部に亀裂が入る。枯れて乾燥した木の枝は、ポキッと折れてしまうが、柔軟性のある枝では、折れずに曲がる。このような骨折のこと。
骨の高さが5mm~8mm位の場合にはソケットリフト法により埋入しますが、上顎洞底までの骨の高さが5mm未満の場合はサイナスリフト法により人工歯根の埋入が行われます。サイナスリフト法は、ソケットリフトと比較して、骨への侵襲が大きい、骨の補足材が多量に必要、また2次手術までの期間が長いなどの問題があります。