まず、喫煙が口腔に及ぼす弊害はいくつかあります。
摂取したニコチンによって歯肉の血管が収縮して免疫力が低下するため、歯周病になりやすいです。
また、歯肉にメラニン沈着を誘発し、歯肉が暗い色になってしまいます。もちろん歯も汚れてしまいます。
多くはないですが、口腔癌の原因の一つです。
過度の喫煙は骨の結合を阻害してしまうことがあります。
インプラントと骨の癒合においては豊富な血流が絶対的に必要ですが、手術直後から過度の喫煙をすると、やはり血管収縮によって血流を阻害してしまいます。
だからと言って、喫煙者に手術は不可能なわけではないのです。
最低限の期間(術後2~3日)禁煙していただき、減煙に協力をいただければよいのです。
ただし、長期的な寿命を考えると、禁煙していただく事が一番いいと思われます。
とくに女性は、タバコを吸えば吸うほど骨粗鬆症にかかりやすくなります。
それと同時に歯周病の進行を早め、歯を支えている歯槽骨をも吸収させてしまいます。
骨粗鬆症は、骨を作る骨芽細胞と骨を壊す破骨細胞のバランスが崩れると発症する病気です。簡単にいうと、骨の量が著しく減少して骨がスカスカになり、容易に骨折する状態になる病気です。
骨の量は思春期に一気に増加し、性成熟期にはほとんど最大の骨量が保たれていますが、閉経を境に、骨折の危険にさらされるレベルにまで減少していきます。
高齢になってからの骨折は、寝たきりにもつながる重大な問題です。
このような状態を防ぐためには、思春期に骨の最大量のレベルを上げておくとともに、閉経後に減る量をできるだけ抑えることが大切です。
骨吸収を促進させる喫煙習慣は、この意味からも重要な危険因子であることを理解してください。
生活習慣に大きな乱れもなく、不摂生もありません。
喫煙率0% インプラントリスク少ない。
30歳代前半の若き患者様、喫煙率0%で歯周病無し上下顎の対咬関係も悪くありません。
ほぼ理想的な位置にインプラントを埋入することができました。
その後、この患者様の口腔内の維持管理がきちんとできて歯科医院での定期メンテナンスが約束どおり行われれば、20年は何ともないと思います。
また口腔内のメンテナンスと健康な身体を維持していく事が、インプラントを含め良好な口腔内を長く保つ秘訣ではないのでしょうか。
向かって右下に1本だけインプラントが埋入されています。
約10年経過、状態は良好で他の歯や上下咬合(噛み合せ)のバランスも申し分ありません。
インプラント人工歯や他の歯を支えている歯槽骨が顎骨もしっかりしており、歯周病の心配もなさそうです。
1本だけ歯が無くなっただけといわず、早期のうちにインプラントを入れ、全体的なバランスを維持できたこと。また、この患者様が、非喫煙者であったことも長期間に渡り、他の歯も含め、インプラントを長持ちさせることができたのだと思います。
一時期禁煙されていたそうですが、お子様が成人された頃より再び喫煙を始められました。
重度進行性の歯周病と閉経による女性ホルモンの減少と相まって、ご自身の歯そのものと歯を支えている歯肉及び歯槽骨をも失ってしまったケースです。
20本~30本/日のタバコ喫煙者です。およそ20歳頃より喫煙を始めたそうです。(20本/日=100%喫煙率とする)
残在歯全てが顎骨・歯槽骨の中に埋まっておらず、グラグラの状態です。
当然のように入れ歯・部分義歯も、揺れて安定しません。
残念ですが、この時点では残っている全ての歯を抜歯するしか選択肢はなさそうです。
重度進行性歯周病の為、ご自身の歯12本全てが抜歯となりました。
重度進行性歯周病で歯根の1/4以下が歯槽骨中にない場合、もはや歯周病の原因歯となっている歯そのものを抜歯しなくてはなりません、この時点で歯周病は無くなります。
残された下顎骨にはなんとかインプラント処置が可能ですが、上顎骨のそのほとんどに歯槽骨がありません。
広範囲な骨の移植を行わないかぎり上顎へのインプラント治療は大変難しい状態と言わざるをえません。
タバコ=喫煙は、インプラント治療・歯周病治療にとって最大のリスクファクターです。
もしも患者様がタバコ=喫煙に加えて、高血圧・高血糖症・脳梗塞の経験が有り、生活習慣の改善に見込みがない場合は、インプラント処置を含む、外科的な全ての歯科治療に向いておりません。非適応症ということです。
こちらの患者様は全ての歯を50歳代で失い、インプラント処置を行いました。
これを機会に禁煙を勧めています。どうしても無理なら減煙でも良いのです。生活習慣を良い方へ改善する努力が必要なのです。でないと先生も人間ですから頑張れないかもしれません。
現在、1日にタバコは10本前後に減煙してもらっています。
3ヶ月に1度のメンテナンスクリーニングに来るたびに、先生は禁煙する事を勧めています。
喫煙している限り、顎の骨はどんどん細くなっていきます。
私が会うたびに禁煙するように言うと、患者様は
「でもねー、やめられないのよ。でもいいの。3ヶ月ごとに先生に会えて、そう言っていただけるだけでも私には嬉しいことよ。」
「私の家は、お金持ちだから駄目になったら、また、新しいインプラントを先生に入れていただくわ」とおっしゃいます。
なかなか手ごわい患者様です。
こう言ってのけられる方はそうはいません。頼もしい限りです。
他の患者様には、ぜひ禁煙してからインプラント治療をお受けになることをお勧めいたします。
本当に良い先生とは、患者様の側に潜んでいる不特定多数のリスクを知らせ、インプラントの予後も含めて長期間、長持ちしていく事を一緒に考えてくれる先生ではないでしょうか。
インプラント治療の成功は、先生捜しであると言っても過言ではありません。