インプラントは、古くローマ時代から行われてきた治療法です。20世紀には、チタンと骨が直接骨結合することが発見されました。
高い成功率と信頼性により、世界中で広く歯科治療に応用されています。インプラントの歴史は長く、古代ローマ時代ガリア地方の墓地から『鉄で出来たインプラントを埋入した骸骨が発掘された』という記録が残っています。
その他にも各地の遺跡から、様々な種類のインプラントが発見されています。例えば、インカ帝国の遺跡の中のミイラからサファイアをはめ込んだ顎骨が見つかったり、エジプト文明には歯の抜けたところへ象牙や宝石を埋める試みがあったりしたそうです。また、古代ギリシャでは、権力者が奴隷の歯を抜いて自分の歯の抜けたところに埋めていたと言う記述もあります。
19世紀に入ると、金・白金・ポーセレンなどが試されました。それではインプラントの歴史を振り返ってみましょう。
20世紀になるとコバルトクロム・セラミックその他様々な材料や形態が試されています。
主な形態として、ネジ型・歯根型・ピンタイプ・骨の表面に置く網目状タイプ(骨膜下インプラント)・板状タイプ(1965年Linkowチタンブレードインプラントと呼ばれていた)・T型(アルミナセラミック)・ハイドロオキシアパタイト(骨の主成分で人工的に化学合成された物質)等様々なタイプの素材・形状のインプラントがありましたが、結果はあまり良くなかったため、消えていきました。
それまでにも今日使われているチタン製のインプラントは試されていましたが、(骨と直接結合する)現代のチタンインプラントとは異なったもので、成功率は50%未満でした。
1952年、スウェーデンの科学者ペル・イングヴァール・ブローネマルク教授は、驚くべき発見に出会います。研究のためにウサギの骨にチタン製の器具を埋め込み、研究終了後に器具を取り外そうとした時にそれは起こりました。器具と骨とがくっついて取れなかった事です。
これは今まで使用していたステンレスの器具では有り得ないことでした。ブローネマルク教授はチタンが骨に結合するのではないかと考えました。現在のインプラント材の主流になっているチタンの特性が発見された瞬間です。その後も実験は続けられチタンは硬組織に対しても軟組織に対しても親和性の高い、つまり生体親和性の高い金属であることが証明されました。ブローネマルク教授は、これを骨との結合という意味で「オッセオインテグレーション-osseointegration-」と名付けました。Osseoとは「骨」、integrationとは「結合」を意味します。そして1965年、本格的に人間への臨床応用が始まりました。その後、研究が進み、オッセオインテグレーテッド(骨に接合した)・インプラントの科学的根拠に基づく確実性も立証されました。人間の体はチタンを味方だと認識する性質を持っているのです。
まさに第2の永久歯といっても過言ではないほどの高い成功率と信頼性で、今や世界中で広く歯科治療に応用されています。また日本では十数年前に東京歯科大学の小宮山先生が中心となって、「世界で唯一の科学的根拠を持ったインプラント」として ブローネマルクシステムインプラントを広めてきました。世界標準のオッセオインテグレーションインプラントの時代が日本にも来たのです。
サファイアや宝石が主流でした。
古代マヤ文明においては真珠貝製のインプラントが使われていました。
チタンが使われるようになり、インプラントは飛躍的に発展しました。ニューヨーク州立大学教授で歯科医師のレオナルド・リンコーが開発した「チタンブレード」は、チタンを板状に加工し、骨には接触させないやり方です。それまで使用されていた素材と違い、折り曲げるなど加工が自由にできるのが特徴です。 インプラントのパイオニアと言うべき方法で、インプラントの普及に大きな功績を残しました。
ブローネマルク医師は、チタンと骨が結合する現象をオッセオインテグレーションと名付けました。オッセオとは「骨の」、インテグレーションは「結合」を意味します。生体に不活性であるチタンは、これまでの素材と異なり骨と直接結合する性質を持っていることが判明しました。
臨床実験を始め、1980年代まで15年にわたって臨床研究を続けてデータを蓄積しました。そして、ブローネマルクシステムを確立し、1981年に学術論文を発表しました。この発表は、歯学界にセンセーションを巻き起こし、世界中でオッセオインテグレーション・インプラントが臨床の場で実際に行われるようになりました。
日本でも歯科インプラントに対する取り組みが始まりましたが、当初は人工サファイアを使ったインプラントが行われるなど様々な取り組みが行われました。
ブローネマルク教授による25年間のオッセオインテグレーション研究と発展について報告がありました。トロント会議で、世界中の著名なインプラントジスト(インプラントをする医師)が集まってコンセンサスレポートを打ち出しています。
※コンセンサスというのは、EBM(Evidence:根拠 Based:基づいた Medicine:医療)に基づいた報告であり、一部の歯科医の経験のみの報告は除外されたものです。
日本初のブローネマルクシステムによるインプラント手術が、東京歯科大学で行われました。
これが日本へ「成功するインプラント」が導入された初めての事例になります。
国産初のチタン製の2ピース・インプラントであるPOIシステムが発売されました。
インプラントの形態は大きく分けてブレードタイプと呼ばれる板状のものとルートフォームと呼ばれる歯根様のタイプがありますが、ルートフォームが主流になり現在に至っています。ルートフォームは当初はシリンダータイプと呼ばれる滑らかな表面でしたが、ネジ状の形態の方が初期固定に有利とわかり、現在のインプラントはネジ山(スレッド)がつくタイプになっています。また1991年に表面が機械研磨(いわゆる削りだしの状態)より強酸で表面処理をした方が骨との結合がより強くなるという論文が発表され、それ以降表面をブラストや強酸により処理しラフサーフェス(微小粗雑構造)が表面性状の良さを特徴にしています。さらに表面をフッ素コーティングする事により骨伝導と石灰化が引き起こされ、治癒が早まると注目されています。日本ではまだ認可されていませんが、数年のうちに日本でもフッ素コーティングタイプのインプラントが登場する事が予想されます。このようなインプラントの改良により予後は日々向上しています。また適応も骨再生誘導療法などが開発され、歯槽骨の再生に役立っています。
これまでの一般的なインプラントの素材には生体親和性の高いチタンが使用されているため、金属アレルギーは起こらないことが知られています。しかしチタンを用いた場合、顎の骨とインプラントは完全には結合(オッセオインテグレーション)せず少し隙間が空いてしまうのです。そんな問題点をクリアするのが、生体活性素材「HA」を表面に使用した「HAインプラント」です。この治療法を用いることで、治療期間を短縮することが可能になりました。
生体活性素材HAとは
HAインプラントの「HA」とは「ハイドロキシ・アパタイト」の略であり、骨と積極的に結合する生体活性素材として知られています。生体活性とは骨と化学反応を起こすことです。HAは歯や骨を形成する成分であり、歯のエナメル質や象牙質のほとんどがこのHAによって形成されているのです。HAを治療に用いると、唾液に含まれるミネラルイオンに反応して、初期虫歯などを再石灰化させることができます。
HAインプラントの表面にはHAが使用され、施術によって顎の骨と生化学的に結合(バイオインテグレーション)します。この働きによって通常のインプラントに比べ、より早く強い結合力と、より多くの骨形成が期待できるのです。
チタン製インプラントを使用した場合のオッセオインテグレーションは、骨とインプラントの間に微細な隙間が空いてしまう場合や骨の状態が悪い場合には不可能になります。それに対してHAインプラントの場合は、たとえ骨との隙間があったり骨の状態が不良であったりしても結合することが判明しています。
HAインプラントの使用率や支持率は、歯科先進国である米国において非常に高くなっており、その臨床はすでに15年を経過しています。信頼性・安全性の高い治療法としてHAインプラントは非常に有効な治療法なのです。
骨の細胞との親和性を高める表面処理を施し治療時間を大幅に短縮することを可能にしたのが SLActive です。
「人間や生物の機能を参考に作られた最先端の製品」と言われこの表面性状により、平均治療時間を6~8週間から3~4週間にまで短縮することができるようになりました。
SLActive(次世代のインプラント技術)は2005年9月にミュンヘンで行われたEAO(European Association of Osseointegration: ヨーロッパインプラント学会)の第14回年次科学会議にて初めて紹介され注目を浴びました。
SLActiveは紹介された時点で、すでに他のインプラント技術と比べ、多くの科学的調査・研究がなされており、以下のような結果が出ていました。
1. インプラントに失敗するリスクを60%にまで減少
2. 即時/早期埋入のプロトコル(臨床計画)において、98%の成功率
(一般的なインプラントと比べ3%増)
3. インプラント初期段階において骨との結合率が高いため、2週間で60%以上が骨と結合し、完全な骨の早期形成を促進
4. 初期段階での安定性が高く、骨に固定される期間も短縮
SLActiveのもつ表面性状は、最も重要な治療初期段階において、インプラントの安定性を高めます。またそれにより、治療の予知性をも高めます。これは、臨床医や患者様にとって、より信頼できる新しい治療の選択肢であると言えます。