インプラント治療は歯を支える根の部分を造ることから始まります。例えば、建物も柱がとても重要ですが、柱はしっかりとした基礎がなければ意味がありません。インプラントも同じなのです。インプラント体を埋める基礎は、顎の骨です。つまりインプラント治療で最も重要になってくるのが、顎の骨の状態です。
顎の骨の状態を確認するのに用いられるのはレントゲン写真です。このレントゲン写真で、ある程度の骨の状態が分かります。このレントゲン写真で骨の状態が悪い場合でも、GBRやベニアグラフト・サイナスリフト・ソケットリフト・リッジエキスパンジョンなど様々な方法で骨の造成をする事が近年では可能になってきました。このソケットリフト法は上顎洞までの距離が5mm以上あれば適応できます。しかし、5mm未満の場合にはサイナスリフト法が適応されます。
さらに、インプラントを埋入する部分の骨の硬さも重要です。同じ顎の骨でも、個人差が非常に大きく、顎の骨のどこの部分かによってもかなりの違いがあります。
最も硬い骨をD1とし、柔らかくなっていくごとにD2、D3、D4と分類されます。インプラントして噛むのだから、いちばん硬いD1の骨がもっとも適していると考えがちですが、実はそうではありません。D1の骨の中は骨の成分がつまりすぎていて血管が乏しく、インプラントを埋入した後に骨が治癒する能力に劣るのです。またドリリングの際、骨とドリルの摩擦により、骨表面に火傷を起こしてしまうこともあります。また、D4の骨はかなり柔らかい為、骨とインプラントが生着するのに時間がかかります。つまり、D2程度の骨がインプラントに最も適しています。骨の硬さはCTである程度予測することが出来ます。
骨の状態がインプラント治療の適応範囲内でも、その手術は簡単なものではありません。数多くの論文でも成功率を医師の経験や知識が大きく左右する、と発表されています。
主な注意点としては、上顎の奥の方では、鼻とつながる空洞(上顎洞)が頬の裏側あたりに広がっているので、ドリルで穴をあける際に感染させてしまう恐れがあります。その結果、咀嚼障害などのトラブルが発生します。
下の顎の奥の方では、神経の管(下歯槽神経)が走っているので、誤って傷つけてしまうことで、唇などに麻痺やしびれが生じてしまいます。
インプラント治療の経験が豊富な医師は、一人ひとりに最適な治療を提供する為に、骨移植や歯肉の形成外科など、日々トレーニングをしています。
またインプラント治療技術は日進月歩です。ですから、歯科医師は最高のインプラント治療を提供しようと、学会や勉強会に積極的に参加し、最先端技術の取得に努めているのです。
主な学会名
・日本口腔インプラント学会
・国際インプラント学会 AIAI(Academy of International Advanced Implantology)
・アメリカインプラント学会 AO(Academy of Osseointegration)
・アメリカ口腔インプラント学会 AAID(American Academy of Implant Dentistry)
・ヨーロッパインプラント学会 EAO(European Association for Osseointegration)
レントゲン写真のほかにも、CT撮影やステント(歯と歯ぐきの模型)を作製します。CT(多断層レントゲン装置)で撮影した情報を、SimPlant(シムプラント)というソフトを使って分析します。SimPlantは患者さんの口の中の見えない所まで3D画像でリアルに再現する事が出来るシュミレーションソフトです。骨の高さや横幅はもちろんのこと、骨の奥行き、硬さ、神経までの距離などインプラント治療の適応であるかないか、どのような術式の選択が必要か判断できます。これにより安全で無理のない確実なインプラント治療を進めることができます。
インプラントの歯根を埋めてもすぐに噛めるようになる訳ではありません。人口の歯(上部構造)が入るまでの間、なるべく患部に負担をかけないようにし、インプラントと骨のくっつきをより確実にする事が必要です。骨折を治すのに、患部にギブスをするのと同じことです。骨の治りは上顎で約6ヶ月、下顎で約4ヶ月はかかります。
インプラント治療を成功させたいと思うのであれば、治療を受けられる患者様自身も治療に対して意識を変える事が必要です。インプラントは術後5年、10年と安定した状態を維持できてはじめて成功といえます。ですから、患者様自身によるケアも非常に重要になるのです。インプラントは虫歯になることはありませんが、細菌感染には弱いため、自分の歯以上の丁寧なプラークコントロールが必要になります。プラークコントロールが不十分だと、インプラント周囲炎という歯周病の一種になることもあります。
インプラントは金属なので、痛みを感じる神経が通っていません。その為、周囲で炎症が起きても自覚症状がなく、かなり状態が進行しなければ気づかない場合があります。その予防法としては、毎日きちんとしたブラッシングをすることです。電動歯ブラシはあまりお勧めしません。力のコントロールが難しいため、場合によってはインプラント周囲の粘膜を磨きすぎて、急激に退縮することがあります。
そして、定期的に歯科医院で検診を受ける事です。インプラントの周囲に炎症は起きていないか、人工の歯(上部構造)がゆるくなっていないか、噛み合わせは問題ないかなどをチェックします。
また、喫煙もなるべく控えるようにしましょう。喫煙は血行を悪くし、歯周組織の免疫力を下げてしまいます。その為、患部の治りを悪くし、インプラントに悪影響を及ぼします。もちろん残っている歯にも全くいいことはありません。